僕と御主人(マスター)の優雅な日常
お味はいかがですか?
「セド、紅茶を頼む」
「はい、ただいま」
御主人(マスター)に頼まれて、僕は紅茶を入れ始めた。御主人(マスター)は紅茶の味にとてもうるさい。一番のお気に入りはアールグレイで、クッキーやスコーンを一緒に出すと目尻が下がって口元がゆるんでいるのがわかる。口には出さないけど、それで僕は御主人(マスター)の好みを見分けている。
ちなみに、セドとは僕の呼び名だ。本当の名前はセドリア。御主人(マスター)はいつもセドと呼ぶ。そんな風に僕を呼ぶのはこの方だけで、呼ばれるとなんだか胸が温かくなる。
僕が初めて御主人(マスター)に仕えた日は、紅茶の入れ方がわからなくて睨まれたことを今でも覚えている。僕が今まで飲んできた紅茶は、袋に入った茶葉(いわゆるティーパック)をコップに入れてお湯を注ぐだけ。時間すら測ってなかったんだから、こんな風にティーコゼーを使って紅茶を入れられるようになったなんて、見事な成長ぶりじゃない?
紅茶を蒸らしつつ、紅茶と同じアールグレイの茶葉を練り込んだクッキーをお皿に並べる。御主人(マスター)はほぼ毎日紅茶を飲むから、一緒に出すお菓子も工夫しなきゃいけない。このアールグレイクッキーは以前作ったとき好評だったから、もう一度あの目尻を下げた笑顔が見たくて作ったんだ。
御主人(マスター)専用のカップに、アールグレイを注ぐ。砂糖は入れないストレート派だから、クッキーは少し甘め。
「紅茶が入りました」
褒めてもらえるかな?って、いつもこの瞬間はドキドキする。御主人(マスター)は僕がそれを期待しているのをきっとわかってる。だって、隠してるけど本当は猫舌なのに、淹れたての紅茶を飲んで感想をいつもくれるから。
「お味はいかがですか・・・?」
「ん。美味しい」
そのままクッキーを口元に運び、僕を見つめる。
「アールグレイの茶葉を練り込んだクッキーか」
「はい!」
御主人(マスター)の目尻を下げた笑顔が見られるなら。僕は美味しい紅茶をずっと淹れ続けるし、一緒に出すお菓子も工夫し続ける。これが僕の毎日の楽しみ。
【End】