私の心に笑顔で入ってきた君を、私はきっと、追い出せない…
出会いと…嵐と…落し物
運命というのは、本当に不思議なもので、忘れようとしたものに…嫌いになったものに対して、きっかけをくれる。
それは、出会いであったり、物であったり、本当に様々なこと。

そして、自分の場合は…出会いだった。

「これ、君のかな?」

ふわふわと桜の舞う並木道で、大切なものを落としてしまい、それを探しに来た時のこと。その日は、ある人のお墓参りに来ていてその帰り道に、落としたことを自分は気づいた。
「ありがとう…ございます。」
突然、後ろから声が聞こえて振り向けば、かっこいい系の好青年がいた。手にしているのは、自分が落としたケース。
きっと、土の上に落としていたのだろう。すこし、土が付いている。
それを受け取ると、そっとチャックを開けて中の物を出す。
手のひらに出されたのは、猫のキーホルダーとかすみ草がモチーフのネックレス。ガラス細工だから、割れてるかも…と思っていたけど、存外、そうでもなくて、ほっとした。
「ぷっ…」
突然した笑い声で前を向く。そこに居たのは、先程の青年。顔を下に向け、口元を手で覆っていて、笑っているのだと知る。
「なんで、笑ってるんですか?」
少し、不愉快だ。
「だってさ。必死に探してるから何かな?って思えば、キーホルダーとネックレス。しかも、かなり安心してるから。面白いなー。って思って。」
「そうですか。それはすみません。くだらないものに付き合わせてしまって。」
皮肉を込めて、謝れば青年はまた、愉快そうに口元を緩める。

「そ、だからさ。LINEしよ。」

「は?」
「LINEだよ。L・I・NE」
満面の笑みでそう繰り返す。にっこり、と効果音がつきそうなくらい。
「嫌です。」
「えー。なんで??」
「その質問、そのままお返ししますよ。
なんでですか。」
「あ、知りたい?」
「別に、言葉の文なので言わなくていいです。」
時間の無駄だな。と思い、背を向ける。が、腕を捕まれた。
「冗談だよ。なんかさ、気になったんだよね。君のこと。ダメかな?」
「……ダメです。」
振り向けば、すぐそこに顔があって戸惑った。手を払う。
「いや、でもさ。君のスマホ。ここにあんだよね。」
そう言われ、見せられたのはオレンジ色のケースに入っている、自分のスマホ。
「は?なんで持って…。」
そう問えば、返ってきたのはご機嫌すぎる声。
「ん?さっき、ポケットから抜きとった。」
そう言いながら、スマホを操作し始めて、私は…といえばその様子を見つめ、呆気にとられて突っ立って居た。
「はい、どーぞ。」
ご機嫌よろしく!にっこり笑った、その青年は、ゆっくりスマホを差し出してきた。我に返り、友だち欄を見れば新しい名前が…。
「一条 光樹(いちじょう こうき)」
思わずつぶやいてしまう。
「そ、俺の名前な。ちゃんとLINEしろよー。」
顔を近づけると、すぐさま私に背を向けて「じゃあねー。」と、手を振り去って行った。
「…何、あれ。」
怒ることもできず、ただ私は立ち尽くし呆れるだけだった。

嵐が去ったな…と感じながら。
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