君をください
.


『あーあ…』



家を出た私が向かったのは

お気に入りの場所だった、原っぱ。




1ヶ月以上も来ていなかったのに


不思議なくらいに今まで通り

ここは居心地の良いままだった。




薄いパーカーを脱いで芝生に広げ

頭を乗せて寝転がる。



芝生の柔らかい匂いが鼻腔をくすぐる。




『♪……♪…』

英語の授業で教わった洋楽を

小声で口ずさみながら空を見上げる。



今夜は満月。






『日山さん?』


私を呼んだのが誰なのか

顔を見なくてもわかった。



『なんですか?秋山先生。』



お月様から
目をそらすことなく答えると


先生が、私の横に座った。




先生と二人になるのは

再開した日、空き教室で

"好きじゃない"と言われた日以来。




平然と夜空を見上げて

緩い笑みを浮かべる姿に



私だけが先生を意識しているみたいで


少しだけ、悲しくなった。




『…私の家

ここから10分くらい
歩いた所にあるんです。』

『………。』

『バス停からだと
この公園を突っ切ると近道で』

『…そうですか。』



なぜか急に喋り出す先生。

私はごろりと横向きに体制を変えた。


先生に背を向けるように。



『先々月までしていた仕事は
帰りが遅くて…

帰り道にここを通ると

芝生の上に
人が寝転がっていました。


それが、日山さんだったんです。』



ゆっくりと話す声は

授業の時と同じ。


静かで、たんたんとしている。



『じゃあ、今日はどうしてここに?』


今の仕事は
こんなに遅くまでかからないはずだ。



『日山さんが、居るかと思って。』


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