君をください
.



『忘れる?』



一瞬、意味を飲み込めなくて

思わず言葉を繰り返していた。



けど、すぐに理解して

私は静かに頷いた。



『分かりました。
無かったことにするって事ですよね?』


『…………そう、ですね。』



たっぷりと間を置いて返ってきた声は

少し震えていた。



あからさまに、不満気な態度。


秋山先生から言い出した事なのに

私が虐めてるような気分だ。



『じゃあ、教室戻ります。』

『…はい。本当にすみません。』



ペコリと一礼して

扉へ歩く間
背中に確かな視線を感じる。



本当になんなんだろう。


捨てられた子犬を

雨のなか置いていくみたいな気持ち。



いや、そんな経験無いけどさ。




その悲しい視線に耐えきれず

扉に手をかけたまま言ってみる。



偉そうな言い方になるけど

これがラストチャンスだよ。


『結局、先生は私が好きだったんですか?』

『…え?』



『だから、私が好きだったんですか?』


2回目は振り替えって

先生と目を会わせたまま言ってみた。



『好き、じゃ、ないです。』


『……分かりました。失礼します。』



なんなんだよ!

と内心イライラしつつ

扉を開けて廊下に出ると



もやもやした感情を振り払おうと


全速力で走りながら

教室に戻った。





はぁはぁ……

『そんな息切らせて、どうしたの?』


ポカンとした顔で聞いてくる

友人の美里に


『自分の限界に挑戦したくて。』


訳の分からない言い訳をした。




秋山先生の顔が

全然"無かったこと"にしたそうじゃ

なかったから


聞いたのに。



"好きじゃないです"


ついさっきの

言葉が頭をこだまする。




好きじゃないなら

最初から告白するなよ!!!!



なんか私、超勘違い女みたいじゃん!!



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