君が髪を切った理由


沈む空は寒さを強調させた。

イルミネーションの準備に賑わう商店街で、どれだけの人が僕たちの関係に気付くだろう。



「すっごく寒いっ!」



僕の上着のポケットに、彼女の手が侵入する。

つなぐわけでもない二人の手が、歩くリズムに反応した。



「離れろよ」って言葉さえ、気持ちが邪魔して言えないくせに、

少し足早に歩くことで、男だと言う事を彼女にアピールしていた。



すれ違う他人に胸を張る。

誰も僕たちの事など、気にはしていないのに。





「汗かいてるね」



ドキッ



突然握られた手を慌てて払いのけた。

心を……読まれる気がして。



「あっ、暑いんだ」



さっきより早く歩く。

鼓動が、僕をまとう空気まで取り込んだから。




追いかける君が
たまらなく愛しかった。

振り返って抱き締められたなら。

そんな気持ちが、
何度も空回りした。




「信じられない!
暑いなら上着貸してよ」



そう、こんな感じで。



凍えるなぁ……




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