やっぱり、無理。
なのに、第一声が。
「無理。悪いけど、帰って。」
鼻にシワを寄せて、腕を胸の前で組んで。
俺を正面から見据えると、顎をしゃくって出口を指した。
「あ?」
一瞬、見惚れたが。
その直後のこのあり得ない態度に、俺はつい癖でまりあを睨みつけてしまった。
ガキの頃から、武道派の親父に鍛えられて。
中学、高校とかなり荒れていたせいもあり、目つきの悪さと態度がすぐに出てしまう、当時の俺はまだまだ若造で。
相手がいくら態度が悪くても、高校に入ったばかりの初対面のガキだってことよりも。
相手に侮辱されたというくだらないメンツに拘るような、ダッセェ男だった。
だけどそんなダッセェ俺に、まりあは決して目をそらさず睨み返してきた。
普通なら、俺が睨めば大抵のヤツはビビり、これくらいのガキだったら泣きだすに違いないのに。
そうだ、それなのに・・・。
その返してきた睨みさえも、痺れるほどそそる目で。
俺は不本意にも、体がゾクリとした。
何だ、こいつ・・・。
俺も絶対に、こいつから目を逸らすまいと思った。
睨みあう事、数秒―――
その緊張は、突然のユルい声で途切れた。
「まーりーあ❤パパが、去年NYでお世話になったー山岸慈朗くん・・・てゆうか、ジローちゃんって呼んでるんだけどー。丁度ずっと留学してたNYウエスト大学から、先月こっちに戻ってきたからさー。この間ご飯食べに行ってー。戻った大学を聞いたら、まりあが入った高校の系列の大学でー、家庭教師頼んだんだよー。ほら、ママがまりあ英語苦手だって言っていたの思い出してさーーー。」
まりあの父の藍崎薫がそう言った。
藍崎薫・・・薫さんは日本を代表する二枚目俳優で。
海外からの仕事も多く、その前年1週間程ブロードウェイに出演する際、現地で雇った通訳とトラブルになり、ホテルのカフェで言い合いになっていたところにたまたま俺が出くわしたのだった。
その時まあ・・・色々あり、行きがかり上俺が通訳や滞在中の世話をするハメになったのだった。
だけど、薫さんは見た目通り、フェロモンムンムンのナルシストかと思いきや、それは仕事上のキャラで。
素はユルくて面白い、ただの娘に弱いオッサンで。
俺と年齢が20歳も離れているというのに、すぐに意気投合し。
雇用関係というより、ただの飲み友達になってしまったのだった。
で、高校に入学した娘の家庭教師を頼まれ。
やって来たのだが。