やっぱり、無理。
「おらっ、寝坊助。朝飯だ。起きろ!」
前日どんなに夜更かししたって、ハードな事をしたって、何故か朝に強いジローは。
ムカつくことに、朝ごはんをちゃんと食べないとうるさい。
「・・・ジローが容赦ないから、腰が痛い。ご飯いらない。」
めくられた掛布団を、かぶりなおして布団の中から反抗してみた。
ジローの家に泊まらない時は、私は朝食は食べない。
てゆうか、朝から食欲なんてない。
コーヒーだけで十分なのに。
「ああっ!?俺が作った朝飯食えねぇってのかっ!?」
案の定、ジローは有無も言わせずそう怒鳴ると、私を担ぎ上げた。
はあ、毎度のことだけど。
ズンズンとリビングにジローの足は向い、ソファーに私は投げられた。
これも毎度のこと。
だけど、今日は機嫌がいいらしく、私にしっかりとキスをしてからキッチンへ戻って行った。
テーブルの上に並べられた出し巻、ホウレンソウのおひたし、納豆、キュウリとキャベツと人参の浅漬け・・・いつもながらの和朝食。
そして、かなりの量だ。
ジローは、俺様で、勝手で、乱暴で、ガサツだけれど。
食生活だけは、マメだ。
部屋が乱れていても、食事のリズムは乱さない。
あ、筋トレも。
薫さんとは正反対のタイプ。
私は、1食抜いても全然かまわないけど、不潔なのは嫌だ。
そこは、薫さんのDNAだと思う。
ソファーに投げられたまま、ボーッとする私に、キッチンからジローが怒鳴る。
「おいっ、飯食う前に顔ぐらい洗え!」
私が朝は低血圧で弱いことを知っている癖に・・・あ、それプラス昨晩の拷問のような激しい行為が拍車をかけていて、動きが鈍くなっているのに・・・まさしく鬼畜行為だ、これは。
でも、このままスルーしても、私が動くまで大きな声を出し続けるに違いないから、仕方がなく立ち上がった。
こ、腰が痛い。
それも、これも、ジローが容赦ないから・・・。
味噌汁を温めるジローの後ろ姿を恨めしく睨む。
その途端。
「あぁ?お前、今舌打ちしやがったかっ!?」
やたらと耳が良いジローは、私のわずかな抵抗さえも見逃さず。
腹が立ったので、今度は盛大に舌打ちをしてやった。
朝食を終えると。
ジローが仕事のメールチェックに、書斎へ戻って行った。
私は食べ散らかされたテーブルの上を片付けるべく、まだ痛む腰を上げた。
ジローは基本朝食以外は作らないし、掃除もしない。
洗濯だって、ほっとけば1週間くらい平気で溜める。
私はそれが嫌なので、ジローの家に来ている時は掃除をしたり。
洗濯は溜まらないうちにしたいので、ジローがいなくたって洗濯だけしに来たりする。
何故か、高校1年の頃からこの生活スタイルになってしまった。
多分朝食をジローが作るのは、私が朝起きてまで朝食を作らないからという理由からだろう。
昼、夜は私がもちろん食事を作る。
まあ、外食することも多いけれど。
初対面で、女性の匂いをつけて現れたジローは。
最初の印象とは違い。
とても良い家庭教師だった。
いや、家庭教師というより、もっと大きな意味での教師だった。
英語嫌いだった私の得意科目をあっという間に英語にしてくれて。
その上、将来は英語関係の仕事につきたいと思わせるほど、私に英語の魅力を教えてくれた。
最初は週2回の家庭教師も、よほどのジローの仕事がない限り何故か毎日家に来るようになり。
ママは夜仕事があっていないし、薫さんはもともと家にいるのは月のうち半分くらいだから、何故かジローが1ヶ月もしないうちに両親公認の私の保護者の様になって。
家でご飯を食べていくのが当たり前になって。
ジローありきで生活する毎日になっていた。
で、ある日。
ジローに依存している自分に気が付き。
愕然とした――