やっぱり、無理。
私の両親は結婚をしていない。
てゆうか。
父親である薫さんは、別に奥さんがいる。
奥さんは40代の売れっ子美人演歌歌手で。
実力もあって、特に口元の黒子が色っぽいと人気で。
結婚して12年、芸能界きってのおしどり夫婦として有名だ。
でも実際は、結婚当初から仮面夫婦で。
演歌歌手の奥さんには、結婚前から超大物政治家のパトロンがいた。
だから、その奥さんと薫さんが一緒に住んでいるということはなくて。
薫さん風にいうと、漫才の相方のようなものだということらしい。
薫さんが言うには、本当に好きなのはママだけで。
だけど、仕事柄ママとは結婚できないらしい。
だけど、独身のままだと色々言われマイナスイメージになるから、お互い条件が合い今の奥さんと結婚をしたのだそうだ。
原因はママの方にあるらしいんだけど・・・それはいくら聞いても教えてくれないから。
でも、私はそういう理由があって認知されていなくて。
ママのクラブのマネージャーをやっている、民川松男さん・・・タミちゃんっていう人の籍に認知されていて・・・ママとは婚姻関係じゃないけど、一応その人が戸籍上の私の父親になっている。
多分、薫さんとママが私の戸籍に父親がいないことを危惧して、そうしたのだろうけれど・・・。
家もママ名義の今私達が住んでいるマンションの最上階の隣の部屋に、タミちゃんは住んでいて。
最上階は2軒のみで、エレベーターも最上階直通で・・・つまり、いわゆる億ションっていうタイプ。
だからセキュリティも万全なわけで、タミちゃんの部屋にも自由に行き来ができる。
イケメンちょい悪オヤジって感じだけれど、タミちゃんはいい人で、小さいころから何かと世話を焼いてくれる。
でも、だからと言って、タミちゃんとママの間に何かあるわけではなく。
ママは、薫さんにぞっこんだし。
薫さんもタミちゃんと仲が良いし。
そうそう、タミちゃんは結婚はしていないけれど、小柄で美人の恋人がいるし。
化粧っ化のない小柄で愛らしい人が、たまにタミちゃんの部屋に泊まっているから。
でも、そんな人がいるのに、自分の子でもない私を認知してしまって、いいのかなと。
私としては、とても複雑で・・・。
もちろん、タミちゃんは私を小さいころから滅茶苦茶可愛がってくれて、私にとって本当の叔父さんのような、家族に近い存在なんだけれど。
とても、複雑な家庭環境だ。
私には父親がいるのに、父親が・・・いないのも同然なのだ。
そう、思うしかなかった。
学校の父親参観などは、全部父親としてタミちゃんが来てくれた。
入学式も、卒業式も・・・私の節目には、父親の場所にはタミちゃん・・・。
その他、突発的なことで何かあっても――
例えば、小さい頃真夜中に高熱が出た時だって、病院へ連れて行ってくれたのは、タミちゃんで。
小学校6年生の時、ストーカーまがいの事を同級生からされた時も、学校の先生やその同級生の親に話に行ってくれたのもタミちゃんで。
不安な時だって・・・薫さんには絶対に頼れないので、タミちゃんを頼るしかない。
12年前、薫さんが結婚した時。
大々的にテレビ放映された薫さんの結婚披露宴は、ママが絶対に私に見せなかったけれど。
その後、何かにつけて薫さんの結婚披露宴の画像がテレビに流れるし。
ママがあんなに頑張って私の目に触れさせないようにしたのに、無駄な努力だったようで・・・私は、やはりひそかに傷ついた。
芸能界歴代最高額の豪華な結婚披露宴だったそうで。
それが、いつものようにお芝居なんだとわかっていても、とても冷静ではいられなかった。
ママのウエディングドレスの写真さえないのに――
小さいころから私は、両親と一緒に買い物も行ったことがないし、遊びに行ったことも・・・公園さえもない。
そればかりか、薫さんをパパと呼んだこともない・・・。
だけど、無理なものは、無理なんだと。
そんな環境を、普通じゃないと思いながらも、受け入れていた。
もちろん、薫さんはママを大切にしていたし、私をとても愛してくれているという気持ちは伝わっていたから。
だから。
私は小さいころから、無理なものは無理と、随分あきらめの早い子供だった。
冷めていたのかもしれない。
その、心の中で。
いつも・・・直感で、無理かどうか見極める癖がついていて。
ジローと会った時も・・・私には無理だと。
大人で、高校生の私にはとても手に負えない男だと、見極めたはずなのに――