やっぱり、無理。
6年前の夏。
まりあをようやく俺のモノにして。
3ヶ月間、禁欲生活だったせいか、それとも惚れてるせいか。
多分両方の理由からだろうが、まりあを片時も離したくなかった。
まあ、そうは言っても。
俺も大学の仕事があって出かけないといけなかったし。
まりあはまりあで、『文化祭に利益を伴う出店を企画する』という夏休み中のグループ課題があり、打ち合わせに出かけたりしていた。
だけど、帰りは待ちあわせをしたり、あえて時間をあわせたりと、なるべく行動をともにできるように調整していた。
自己中心的な俺が面倒だとは思わず、そんな事をしようなんて今までにはなかったことで自分でも驚いたが。
とにかくまりあと一緒にいる事が、当然の事になっていたのだ。
12も下のガキに、マジになった自分に呆れるものの、俺はもうまりあなしではいられないと、早々に観念していた。
その日も、大学の方が終わって。
まりあに何か買ってやってその後夕飯は外で食おうと、まりあと駅で待ち合わせをした。
暑いので、カフェで待ち合わせをしていたら、程なくしてまりあがやってきた。
まあ、深く考えちゃいねぇが、こういうのをデートっつうんだろうと思いながら。
今まで関係のあった女とは、面倒であんまこういうことはしなかったな、なんてことがふと頭に浮かんだ。
いや、それよりも、んなこと思いもしなかったと・・・改めて、面倒くせぇことを自らかって出ている自分に驚いた。
で・・・つい、目の前のまりあをまじまじと見ると。
「何?」
「・・・いや・・・何か、お前。暑くねぇか?その髪・・・しかも、毎日乾かすの時間すげぇかかるし。」
俺の視線を澄んだ瞳で返され、何となく考えていたことが見透かされそうでつい茶化すように、まりあの髪をクシャリと触った。
背中まである、艶のある長い髪。
確かに綺麗だが、ブローに20分もかかる。
だけど、まりあは眉間にシワを寄せて。
「いいのっ。」
と、口を尖らせた。
実は、この拗ねた顔が俺は結構好きで、何かっつうと、最近こうやってまりあをからかってしまう。
そんなまりあを見て、ククッ、と笑っていると。
「山岸くん?」
突然、俺を呼ぶ声がかかった。
振り返ると、カズミ。
「おう、久しぶりだな。」
「ホント、最近全然連絡くれないしー。っていうか、携番変えたでしょ?・・・って、そういうことか。」
カズミがまりあをチラリと見た。
カズミは、セフレだった女。
といっても、東京に数十店舗カフェをもつやり手の旦那がいて、お互い割り切った付き合いだった。
多分、俺以外にも遊び相手はいて、深入りをしない、させない・・・だけど気のイイ女だった。
察しもよく、一瞬にして俺とまりあの関係がわかったらしい。
「そういうこと、だ。」
と、俺が答えると。
「なるほどねぇ・・・あんなレアな笑顔されちゃぁねぇ。なるほど、そっか・・・。じゃあ、元気でねー。」
「おう、お前も元気でな。」
今まで一度もなかった相手を気遣う俺の言葉に少し驚いた表情をした後、カズミはニヤリと嗤うと、手をヒラヒラさせて去って行った。