やっぱり、無理。
だけど――
「おら、ゼミのメンバー…って…全員いるじゃねーか・・・はあ、お前ら女でゼミ選ぶんじゃねーよ、って今更か・・・じゃあ、研究室もどるぞ。」
私の見ている前でキスまでした仲なのに、ジローは東野さんを完全に無視でそう言うと。
ジローの研究室が入っている棟に向かって歩き出した。
もちろん、私の腕をきつくつかんで。
仕方がなく、引っ張られるように歩き出した。
「北島さん、待ちなさいよっ!?」
うっさい。
それにこの場合、待てといわれるのはどこを見てもジローのはず。
だけど、ジローはそんな東野さんは完全に無視で。
そこへ、和田君がいきなり爆弾を落とした。
「山岸准教授、北島さんと別れた理由って、この人が原因ですか?ってことは、浮気ですか、最低ですね。」
和田君の向こう見ずとも言える発言に、早足だったジローの歩みがピタリ、と止まった。
「あ?なんだと?」
事実なんだから、そんなに凄む必要はないのに。
だけど、和田君の言葉に昌までも反応した。
「浮気?ちょ、山岸准教授、どういうことですかっ!?そういうことなら、これ以上まりあに付きまとわないでください!」
そう言って、昌が私を自分の方に引き寄せた。
「まりあにさわんじゃねぇっ!!クソがっ!!」
怒気を含んだ声で、ジローが私を取り返そうと手をのばす。
だけど。
「おいっ、お前だけずるいぞ!!」
「まりあちゃん、こっち」
「北島さん、俺なら絶対に浮気なんてしません!!一生大事にします!!」
「俺だって!!」
「お前らだまれ、北島~、俺んとここい!」
また、同じゼミの男子たちに囲まれた。
途方にくれる私だったけれど、きつい視線が注がれていることに気がついた。
って、もちろん。
バッサバサツケマの視線だけど。
ツケマ、何枚つけてる?
迫力顔で睨まれたって、どうしようもないしー。
ああ、こういうのが私は。
昔から面倒くさいって思うパターンなんだよね。
「ふふ、やっぱり北島さんって見た目通りの人なのね?」
東野さんが、私の頭のてっぺんから足の先まで無遠慮に眺めまわした。
まあ、どう見ようと、勝手だけど。
気分はいいもんじゃない。
「まあ、あんたみたいに五重ツケマなんてしてないから、そのまんまだけど?」
気分が良くない上に、やっぱり、ジローとキスをしたということが、私の口調を無意識にきついものにしたようで。
自分の口から出た嫌味な言葉に気が付いて、うんざりとした。
だけど、それは火に油を注いだようなもので。
「そんなにしてないわよっ!!!・・・な、なによっ!あなたなんてっ!!そんな長い手足で、目だってそんなに潤ませてっ!ちょっと肌が綺麗で美人だからって、そんなショートカットを無造作にしてますって、実は自分の魅力がよくわかっていて、男にどうやったらもてるか、計算ずくなんでしょう?山岸先生だって、そうやってだまして、落としたんでしょっ!?この男好き!!まだ、男が欲しいの?」
完全に、勝手な想像力の末の思い込みだと思う。
言わせてもらえば、スタイルも顔も肌だって、もって生まれたものだし。
目が潤んでいるのはアレルギー性のものだし。
ショートカットだって最初は、ジローに無理やり美容院へ連れていかれて、短く切られたんだし。
男なんてジローで手いっぱいだったし。
ましてや、計算なんて面倒くさい。
計算なんてしてまでする付き合いなんて、したくないし。
いや、いつも勝手に思い込まれて、そう言われるのも慣れているけどね…。
ま、面倒だから、あえて反論もしない私も悪いのかもしれないけど。
てゆうか、このコ、パワーあるな…。
何か変に感心していたら。
「勘違いすんな、まりあは俺にぞっこんだから。騙すも何もねぇよ。それにショートカットは、単に俺の趣味。長ぇと、色々面倒だからよ。」
この状況で感心するくらい空気を読まない、ゴーイングマイウエイな発言を、ジローがしやがった。
思わず跳び蹴りをしたくなった。