パステルデイズ
「おはよう。」
朝起きて誰かに挨拶をするなんて久しぶりだ。
「おはよう。ご飯食べる?」
朝食の支度をしながらおばあちゃんが言う。
挨拶が返ってくるのはもっともっと久しぶりのことだった。
「うん。食べる。」
「じゃあ鮭焼くから先テーブルの上のおかず食べてて。」
言われたとおり髪はボサボサ、スウェットのまんま私は食卓についた。
おじいちゃんはお茶を飲みながらニュースを見ているところだった。
「おう。菜美おはよう。」
私に気づくとニュースから目を外して笑って挨拶してくれた。
「おはよう。今日はどっか出かけるの?」
ちなみにうちはおじいちゃんもアクティブだ。
競馬や競輪オートレースが大好き。
しょっちゅう朝出かけて夕方帰ってきたりする。
それでも帰ってきたら私たちをどこか美味しいご飯屋さんやカラオケやボーリングに連れてってくれるから好きだった。
おじいちゃんは優しい人だ。
「うん。今日も行ってくるよ。」
「そっか。気をつけてね。」
「アンタ何時に帰ってくるの?」
鮭を運びながらおばあちゃんが聞く。
「夕方かな。今日は夕飯は家?」
「今日は家ですよ。」
「菜美は?今日はどっか行くのか?」
「今日は行かないよ。おばあちゃんも昼から用事あるから。」
「菜美は宿題やらないとね。」
「うっ…。痛いところを。」
誰かに1日の予定を聞かれるのも久しぶりだし誰かの予定を知っているのも不思議な感覚だった。
というかこんな風に会話しながら食事するのが久しぶりすぎた。
和やかな気持ちの中暑い暑い1日が始まろうとしていた。