パステルデイズ
フルメイクを終えて私服に着替え髪もゆるく巻く。

鏡で自分の姿を確認すると昨日から準備してあったスーツケースを取り出した。


この中には着替えや化粧品や勉強用具やお気に入りの漫画全巻などとりあえず思いつくものを全て入れた。


これさえあれば生きていけるように。





冷房の効いていないこの部屋では少し動いただけでも額に汗がにじむ。

ノースリーブだが暑いものは暑い。
ファンデーションが落ちないようにそっとタオルで汗をふいた。



準備を終えると玄関へと向かいサンダルを履き終え改めて室内を見た。




…ここでなんの感情も浮かんでこない私はやはりあの人が言うように人間として欠陥があるんだろうなぁ。





フッと自嘲気味に笑う。


17年間過ごしてきた家。
そこを出て行くというのに涙なんて少しも出てこない。
それどころか思い出すら湧いてこない。



でもまあ、過ごしたといっても本当に私はここにいただけなのだ。


私はこの家の同居人、居候であっただけで家族ではなかった。


そう。




家族なんていなかった。


血は繋がっているかもしれないけどこの家に私の家族はいなかった。
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