パステルデイズ
突然のことに固まる私。
「うえっ。やっぱり細かいチョコの入った歯磨き粉だろ。」
私の手は掴んだまま、彼は顔をしかめる。
「だからお子様には早いんだってば。」
ドキッとしてしまったことはひた隠しにして、私は至って平静に言葉を返す。
「俺は自分のやつのがいいや。」
そう言ってパッと私の手を離すと、彼はまた自分のバニラアイスを食べ始めた。
私も自分のを食べるのを再開したが、心臓は高鳴ったまま。
いや、これは全国の女子、誰でもそうなると思うよ、ほんと。
チラりと横を見れば、何食わぬ顔で川を見ながら、アイスを口に運ぶ彼が目に入る。
その横顔はこれまで通りの、綺麗なポーカーフェイス。
コイツは、なんとも思ってないのかな。
「アンタって女慣れしてるよね。」
自分だけドギマギしていることに、ムカつきながら彼に言う。
「はぁ?何をいきなり。」
眉間にシワをよせて聞く彼。
「普通の女の子にやったら勘違いされるよ。」
「なにが。」
あざとい計算かはたまた天然タラシか。
やり慣れてんのかなぁ。こういうの。
そう思うと、またちょっとムカつく。
彼に近づいていくと、さっき私にしたみたいに少し強引に手を掴む。
彼の手に触れたときに、心臓がさらにギュッとした気がしたのは、多分、気のせいじゃない。
早くなる鼓動を感じながら、彼の手をそのまま自分の口元へと運んでいった。
パクッとアイスを口に入れる。
チョコミントとは違うふんわりとした優しいバニラの甘み。
その甘味を感じながら、彼を見つめた。
「こういうこと。随分やり慣れてそうなことで。普段からやってんの?」
至近距離のまま尋ねる。
”やってないよ。お前だからできただけ。”
そんな甘い言葉を、期待してないって言ったら嘘になる。
あぁ、やっぱり私って…
「よくやってたよ。なんで?」
ケロリとした顔で言う彼。
その言葉に、上昇していた体温が、一気に引いていくのがわかった。
そうか。こんなのコイツにとっては大したことじゃないのか。
色んな女の子にできることなんだ。
やっぱり、ドキドキしたのは私だけか。
そうやって、少しショックを受けてる自分にもため息が出る。
わかってる。
考えないようにしてたけど。
私、コイツに惹かれてるんだ。