パステルデイズ



ゆっくりと彼から手を離して、距離を取る。


どうやら私の感情はダイレクトに顔に出たらしい。




「なに?どうかした?」





彼が怪訝そうな顔でこっちを見てきた。








「べっつにー。やっぱ女タラシかーと思って軽蔑してるだけ。」




ニッと笑って答える。





「タラシじゃねーよ。」




「でもところどころに女慣れしてるなぁって思わせる行動してるよー。」





「そうか?普通じゃね?」





「それで普通とか慣れすぎー。」






笑いながら答える。



けど彼から視線は逸らしたまま。





「普通、あんな風にアイス食べたりしないからー。」



「え、マジか。俺にとっては普通なんだけど。じゃあ相手から一口もらうときどうすんの?」



「それこそ、普通に一口ちょうだい?って言うよ。」




「俺だって言ったじゃん。」




「許可出す前に、手を引いて食べちゃったじゃない。女の子にあんなことしたら、普通勘違いするよー。」




「そうか。だから俺って異様にモテるんだな。気づかない間に、女子のハートを奪ってたわけか。」




「サイテー。女心わかってないっていうか、わかりすぎてるっていうか…」




「女心っていう話の前に、俺の周りに女しかいなかったから仕方ないんだよ。女といつも一緒にいるんだから、自然とウケがいいことしてんのかも。」





「……そんな今まで女の子とつるんでたの?それって、もはやホストみたいなもんだよね。」




「ちげーわ!女つっても、姉ちゃんだから。小さい頃からずっと姉ちゃんといたんだよ。」




「え、なに、シスコン?」




「本気でぶっとばすぞ。」




「まあ、アンタのお姉さんなら綺麗だろうね。見たい!」




「ああ。お前と違って、天然物の美人だったよ。」




「こっちこそぶっとばすぞ。」




「やれるもんなら、どうぞ?」




「…てか、その言い方だと過去形になってるから。だったってなによ、だったって。今は美人じゃないみたいじゃない。」




「いや、過去形であってるし。」




「はぁ?ひどいわね、アンタ。今はブスって言いたいわけ?」



「そうじゃなくて。」






そして、今までの会話と同じトーンで続ける。





「死んだんだよ。」





あまりに、彼の言い方がさりげなくて。



初め、そんなに深刻に聞こえなかった。





「えっ…?なんて?」




ようやくここで彼を見る。




すると彼は、これまでと同じ綺麗なポーカーフェイスのまま、こう言ったのだ。







「死んだんだよ。姉ちゃん。ついこの間な。」



< 36 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop