パステルデイズ
ゆっくりと彼から手を離して、距離を取る。
どうやら私の感情はダイレクトに顔に出たらしい。
「なに?どうかした?」
彼が怪訝そうな顔でこっちを見てきた。
「べっつにー。やっぱ女タラシかーと思って軽蔑してるだけ。」
ニッと笑って答える。
「タラシじゃねーよ。」
「でもところどころに女慣れしてるなぁって思わせる行動してるよー。」
「そうか?普通じゃね?」
「それで普通とか慣れすぎー。」
笑いながら答える。
けど彼から視線は逸らしたまま。
「普通、あんな風にアイス食べたりしないからー。」
「え、マジか。俺にとっては普通なんだけど。じゃあ相手から一口もらうときどうすんの?」
「それこそ、普通に一口ちょうだい?って言うよ。」
「俺だって言ったじゃん。」
「許可出す前に、手を引いて食べちゃったじゃない。女の子にあんなことしたら、普通勘違いするよー。」
「そうか。だから俺って異様にモテるんだな。気づかない間に、女子のハートを奪ってたわけか。」
「サイテー。女心わかってないっていうか、わかりすぎてるっていうか…」
「女心っていう話の前に、俺の周りに女しかいなかったから仕方ないんだよ。女といつも一緒にいるんだから、自然とウケがいいことしてんのかも。」
「……そんな今まで女の子とつるんでたの?それって、もはやホストみたいなもんだよね。」
「ちげーわ!女つっても、姉ちゃんだから。小さい頃からずっと姉ちゃんといたんだよ。」
「え、なに、シスコン?」
「本気でぶっとばすぞ。」
「まあ、アンタのお姉さんなら綺麗だろうね。見たい!」
「ああ。お前と違って、天然物の美人だったよ。」
「こっちこそぶっとばすぞ。」
「やれるもんなら、どうぞ?」
「…てか、その言い方だと過去形になってるから。だったってなによ、だったって。今は美人じゃないみたいじゃない。」
「いや、過去形であってるし。」
「はぁ?ひどいわね、アンタ。今はブスって言いたいわけ?」
「そうじゃなくて。」
そして、今までの会話と同じトーンで続ける。
「死んだんだよ。」
あまりに、彼の言い方がさりげなくて。
初め、そんなに深刻に聞こえなかった。
「えっ…?なんて?」
ようやくここで彼を見る。
すると彼は、これまでと同じ綺麗なポーカーフェイスのまま、こう言ったのだ。
「死んだんだよ。姉ちゃん。ついこの間な。」