パステルデイズ
まるで小さな子供をあやすみたい。
ポンポンと一定のリズムで撫でられているとなんだか猛烈に恥ずかしくなってきた。
「い、いつまでやってんのよ!」
そう言って慌てて手を払いのけちゃう可愛くない私。
「そうそう。そっちのがいいよ。お前そんな明るくないだろ実は。意地っ張りなネクラちゃんだろ?」
「アンタはほんとに一言多いし口も悪いんだけど‼︎」
「つーかお前は男に慣れてなさすぎじゃない?触っただけでこれかよ。だからモテないんだよ。」
「やかましいわボケ。前も言ったけどモテるからね私‼︎」
そう言うと大げさに驚いた顔をつくる。
「まじかよ。惚れ薬とか使ってんの?
それとも目の悪い人ばっか狙ってるとか?」
「ぶっ飛ばす。まじでアンタぶっ飛ばす。」
「ああ違った。一級詐欺師だもんな?顔面も中身も。それくらい簡単か。」
「はい。アンタ処刑。か弱い乙女の心を傷つけたー。」
やつの肩にパンチを繰り出す。
「痛えよ。」
「私の心はもっと痛かった。ガラスのハートなんだからね。」
「防弾のな。」
減らず口にもう一発パンチ。
さっきまでの不安はパンチと一緒にどこかになくなった。
好かれてるかはわかんないけどとりあえずこの人は私の中身を見てくれてる。
「ちょっまじで痛いんですけど。威力上がってません?」
「軟弱な男にはこれくらいがちょうどいいでしょ。」
この拳にこめた”ありがとう”は
きっと素直に口にはできないから。
せめてこのまま届け。
いつの間にかあんなに鳴いていたセミの声は聞こえなくなっていて
日が沈むのが遅い夏の夕暮れをそれで初めて感じたんだ。