暇を持て余した諸々のあそび
7我が最愛にして災厄たる君へ
黒輪:
「ジンくーん。あれっ、執務室に誰もいないっ、ということはもしかして全員お留守?よっしゃ、ここはジンくんの机の引き出し漁り隊隊長活動のチャーンス!」
ジン:
「誰が誰の引き出しを漁るって?」
黒輪:
「ぶふぉああっ、いいいたんですか隊長!良かったような残念なような」
ジン:
「どっちだ」
黒輪:
「いやいや今日に限ってはいてくれてよかったですよ。それよりソファーの上でそんなに無防備に居眠りするなんてどこぞの変態の餌食になるからやめなさい」
ジン:
「心配はない。俺の昼寝時間には決まってレインの氷化魔術が屋敷全体に張り巡らされるからな」
黒輪:
「完全防衛!?ジンくんの昼寝にそこまでするなんてあの子ヤンデレの素質があるんじゃ」
ジン:
「ところで、いてくれてよかったというからには何か俺に用事があったんだろうな」
黒輪:
「はっ、危うくれーちゃんヤンデレ化計画を小一時間練るところだった。こほん。えー、今日は君に渡したいものがあってきました」
ジン:「何なんだ改まって気持ちが悪い」
黒輪:
「気持ちが悪い!?たまには僕も改まりましょうきみの何年目かの誕生日を祝って!」
ジン:
「?」
黒輪:
「ほら、そうやって自分を大切にしないかられーちゃんがちょいちょい悲しくなるんだよ。誕生日くらい覚えて、一週間前くらいには思い出して前日にはわくわくして当日を待つくらいの子供らしさが欲しかったな」
ジン:
「そもそも既に成人済みの成人男性に子供らしさを求めるなんて矛盾だな」
黒輪:
「君は変なところで子供っぽくて変なところで大人びている。そんな性格にしてしまったのは当然君を生み出した僕のせいなんだろう」
ジン:
「なぜ悪びているような言い方をするんだ」
黒輪:
「どうしてだろうね。もし僕が数年前の今日に君を描かなければ君という存在は現れなかったのだろうけど、それでも僕は、君の生みの親として君や、それから彼らを過酷な運命へ陥れてしまったことをどうしても悔やまなければならない。
それは検討違いと君たちは言うけれど、それでも、もっと平和で、もっと平凡な世界へ君たちを落とすこともできたのだろう。君の誕生は僕には喜ばしくも切ない日である。それは君を愛するが故の矛盾なので、どうか理解してほしい」
ジン:
「よく、おまえが俺を描いた日のことを覚えているものだ。現実には存在しない俺を造り上げた日のことをお前は誕生日と呼び、毎年本物のように祝いの言葉をくれる」
黒輪:
「愛しい我が子にだったら誰だってするさ」
ジン:
「残念ながら俺は今の世界観に俺が落とされたことになんの必然性も感じていない。そうなるべくしてなったのだろう。だからお前の果てない後悔もきっと理解をしてやることはできないだろう。
だが、俺は少なからずお前に感謝している。俺に世話焼きな兄貴分や従順な秘書官、そして賑やかな部下を持たせてくれたことを。どこかわからない世界のなかでただ霧のようにたゆたうよりも、いまの世界はずっと幸福で有り難い。
俺もこの日は覚えて然るべきなのかもしれない。ここにおまえが呼び出してくれたことを、まるで我が身の誕生を両親に感謝するように」
黒輪:
「ジンくん…っ!!た、誕生日おめでとう!生まれてきてくれて、本当にありがとう!!これからもよろしくね」
ジン:
「ああ…俺は幸福だ」