秘め恋*story1~温泉宿で…~




でも、何で私の部屋へ?



仕事も終わったなら、用はないはずなのに。




「酒井くんは何で私の部屋に?」



「えっと、あの庭にあるカラーのことでお話したくて。」



「カラー?」




カラーってあの私が好きだけどド忘れしてしまったあの白い花の?




「葉月さん、カラーが好きだって
仰ってたので…」




え、覚えててくれたんだ…


胸の奥がフワッと熱くなる。


ダメ。これは信じられないけど、確実に…




「カラーの花言葉は…」




微笑みながら、私の顔を覗きこむ彼に




「“素晴らしい美”っていうんですよ。」




一目惚れをしてしまった。。


ほんの数時間前に会った彼に


どうしようもなく、ときめいてしまう。




「いい花言葉ね。」




気持ちを確信してしまうと急に恥ずかしくなって酒井くんの顔がみれない。。



思わず目を逸らしながら、言う私。




「何て言うか…葉月さんにぴったりだと思って…教えてあげたいと思って、こんな時間にお邪魔しました。」



「ううん。ありがとう。嬉しいわ。」




“素晴らしい美”


私…そんなに美しくないよ。


仕事にも疲れて、恋愛に枯れて、女っけすら枯れかけてるのに…




私は窓際のソファーへと移動した。


窓越しに夜の景色を見ながら、本音…いや、自分の悲しくて寂しい現在を思った。





「でもね、私には勿体ない。
そんな美、今の私にはないから。」



「そんなことないです。」



「お世辞は結構よ。」




お世辞すら最近言われてなかったかもなぁ。




「この旅行ね、ほんとは現実逃避なの。
仕事も何もかも嫌になって、逃げたくなったの。」




そう。ほんとは癒されたくてとかじゃない。


逃げたかっただけ。



窓ガラスに映る酒井くんは私の話を黙ったまま聞いていた。



あーあ、引いてるな。


悲しい女だなって思ってるなぁ。















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