夏の名前
□day1
1.
「速斗ー!
そっち運び終わったら、先に帰ってて良いぞー!」
「わかったー!」
「お母さんの手伝いでもしてあげなさい。」
「はーい。」
池内速斗は畑から出て、自宅の方へ歩いた。
彼の家は農家だ。
夏期休暇の今、彼は連日両親と共に畑へ出ている。
同級生にも農家の家に生まれた者はいたが、彼ほど熱心に家業に携わっている者はいなかった。
自宅までのほんの10分の道のりも、速斗には楽しく思えた。
北西部に連なる山々の麓に彼の住む集落はある。
近年過疎化が叫ばれる、農村集落であるが、この町は比較的深刻ではない。
それでも若い人達は都市へ出て行くので、速斗と近い世代の人はあまりいない。
速斗はそれでもこの町が好きだった。