夏の名前







川沿いを下り、車が殆ど通らない広い道路を2人で進む。




「静かだね。」



「そうだね。
もう少しいけば、車が多くなるかな。」



「なんか、いいな…」


「…え?」



統子はわらって言った。


「速斗君には想像つかないかもしれないけどね、東京ってめちゃくちゃ人が多いの。
人を見ないところと言えば、自分の家ぐらい。
でも、東京の家ってこことは比べ物にならないくらい狭くて。

何て言うのかな。
この、空間を独り占めしている感覚は、向こうではどうしたって味わえないものなの。」


「へぇ…」


「…今、この道には、速斗君と私しかいないでしょ?」




「…うん…。」



「それってなんだかとっても素敵なことだと思わない?」




統子はまた、笑った。




< 38 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop