夏の名前
川沿いを下り、車が殆ど通らない広い道路を2人で進む。
「静かだね。」
「そうだね。
もう少しいけば、車が多くなるかな。」
「なんか、いいな…」
「…え?」
統子はわらって言った。
「速斗君には想像つかないかもしれないけどね、東京ってめちゃくちゃ人が多いの。
人を見ないところと言えば、自分の家ぐらい。
でも、東京の家ってこことは比べ物にならないくらい狭くて。
何て言うのかな。
この、空間を独り占めしている感覚は、向こうではどうしたって味わえないものなの。」
「へぇ…」
「…今、この道には、速斗君と私しかいないでしょ?」
「…うん…。」
「それってなんだかとっても素敵なことだと思わない?」
統子はまた、笑った。