夏の名前
2.
「…この度は御乗車誠にありがとうございました。
またの御利用を心より待ち申し上げます。」
ガタッ
「…ここ、久しぶりね。
覚えてる? 統子?
確か、ここへ来たのは5年振りのはずよ。
前回は一泊位しか出来なかったけど、今回は長い間いられるわ。」
白石統子は両親と共に、凡そ5年振りにこの地に立った。
彼女の両親は東京で働いている。
其故統子の母親の地元へ帰るのは簡単なことではなかった。
先日、やっと両親の休暇がそろって取れたので、統子らは、久々の帰省をする運びとなった。
JRの最寄り駅から統子の祖父母宅まではタクシーで行く。
統子はぼんやりとタクシーの窓の外の景色を見ていた。
都会とはまるで違う風景。
車が殆ど通らない道路。
抜けるように青い空。
彼女の目には、この町の全てが新鮮に映った。
タクシーは市街地を抜け、更に山の方へ進む。
その周辺は畑ばかりで、統子は本当に人が居るのか疑わしいとさえ思った。