天体望遠鏡の向こう
ある夏のやみ。
夏の、星のよく見える夜だった。
星を飾った闇に溶け込むような黒ずくめの服に身を包んだ男が、ひとり。
ある家の、二階のある部屋で、音をたてないよう窓に向かっていた。
もちろん、男はこの家の住人ではない。
世間一般で言う、泥棒というものだった。
男は自分の服装と同じ、まっ黒の金品の入った大きな鞄を大事に抱え、他にはないかとドアが開けっぱなしになっている部屋へ入る。
その部屋は、子供部屋のようだった。
暗闇に慣れた目で見渡すと、そこには手作りだと思われる正座早見盤、開きっぱなしの何本もの付箋と書き込みのされた星の図鑑、そして壁には、拙い筆遣いで描かれた流星群の絵が飾ってあった。
そして学習机には理科の教材だけがきっちりと並べられており、ほかの科目の教材は床に乱雑に投げ捨てられていて、少し笑えた。
「星が、好きな子なのかな…」
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