天体望遠鏡の向こう
「きれいだな」
「ああ」
そこから流れる沈黙。
だが、息苦しさは感じない。
「なあ、あんた、なんで泥棒なんかやってんだよ」
数十秒の沈黙ののち、望遠鏡をのぞいたままの男の背中に、ゆうきは問いかけた。
「もうこれっきりにするって言うなら、あんたのことは黙っておいてやるから」
そんなこと言われなくても、ゆうきには話すつもりだった。
いや、話したかった。
「…俺は昔、流星と同じように天文学者になりたかった。星が、大好きだったから」
望遠鏡のピントをずらし、ひときわ輝く赤い星にズームさせる。
「で、俺は星を見るための天体望遠鏡をほしがった。…流星が持ってるみたいなね。でもうちは貧乏で、一人で必死に働いてくれている父さんには言えなかった」
「お母さんは…?」
「俺が物心つく前に死んだよ」
ゆうきが黙って聞いていてくれるため、男は安心して話すことができた。