天体望遠鏡の向こう
「で、ある日父さんが言った。お前がかけっこで一番になったら、でっかい天体望遠鏡を買ってやる、って。なんでわかったんだろうな…。ほしいなんて、俺は一言も言わなかったのに」
くぐもった笑い声が、小さく聞こえる。
「でも、俺の学年には、一人すごく足の速いやつがいてね。どんなにがんばっても、俺はいつも二番だった。もう、悔しくて悔しくて」
男の瞳は、天体望遠鏡を通して、どこか別のものを見ているようで、ゆうきはひとことも相槌を打つことができなかった。
「それで、俺がもたもたしている間に父さんは事故で死んだ。そこからしばらくして、俺は泥棒ってやつを始めたんだ」
「…」
俺は望遠鏡から顔を離し、ゆうきに向かって小さく笑った。
「俺はもう行くよ。自首する。今日お前らと星が見れてよかった。聞いてくれてありがとう」
「待ってよ…」