先回りはしたくてしてる訳じゃないんですけど!
先回りは日常茶飯事
言い訳から始めると、
確かに好きになったのは私からだから告白するのは私からで当たり前。
でもね、
私の告白を受け入れた以上、責任は彼にもあると思うんです。
だから、
キスもそれ以上も普通は女の子からさせるものではないと思うんです。
私の方がずっとずっとずーーっと彼を想ってるのは明らかだし、
私が彼を想う以上とか同等くらいとかも彼に想ってもらいたいなんて望まないけど、
せめて女としてというか、恋人として扱ってもらいたいなーと思うんです。
しかも、もうすぐ私は27歳の誕生日!
できればベタだけど誕生日にプロポーズされて、幸せいっぱいの27歳をスタートさせたいんです!
その為にはどうしたらいいのかかなり考えてとうとう答えが出たのは昨日の夜。
題して、「彼のハートを鷲掴み大作戦」
を決行しようと思います!
****
「お帰りなさい!」
仕事帰りの彼を満面の笑みで語尾にハートマークも忘れずに迎えた。
彼、政孝(マサタカ)に手を広げて抱きついてから精一杯背伸びして頬にキスをする。
彼は抵抗はしないが受け止めてくれているわけではないのは承知済み。
でも、拒否しない彼が悪いということにして抱きついて離れない。
そんな私を気にすることなく彼はスタスタとリビングへ向かって歩いていった。
「菜々美(ナナミ)、今何月か分かってる?」
「8月でしょ?私だってそれくらいは分かりますー」
プンプンモードで返事をすると、彼は溜息をついて抱きついている私の腕に触れる。
「分かってるなら早く離れてくれないか。暑い。」
「あ、ごめん、ごめん、暑かった?クーラーの温度もう少し下げるね。リモコン取って?」
「だから、離れて。」
「いや!お帰りなさいのギューは最低5分!」
「…また何か変な入れ知恵つけやがって。」
「いいでしょ?今日からお帰りなさいのギューしようね?」
「結構です。お断りします。」
「まぁまぁ、遠慮しないで。」
「……もう、いい。勝手にしろ。」
政孝が自分から離そうと触れていた彼女の腕を逆に引き寄せようとした時…
「あ。もう5分経ったみたい。お腹すいたからごはんにしよ?」
いともあっさりと自分から離れた恋人にかなーり苛立ちながら政孝は食卓に着いのだった。
*******
「政孝どうしたの?」
なぜかあまり機嫌のよろしくない彼に彼女は心底不思議そうだ。
それが更に政孝の不機嫌指数を上げていく。
彼女はいつだって政孝の思考回路では想像できない方向へ行ってしまう。
さっきのようなことは日常茶飯事だ。
政孝がこの捻くれた性格を素直にしようとすると彼女はいつもするりと逃げていってしまう。
しかも、それが全くの無自覚だから手に負えない。
彼女がこれを計算でしているのであれば、政孝は彼女に一生かかってもたどり着けないだ
ろう。
「え!もしかしてこの煮物味薄いから嫌だったとか!?」
「……違う。」
「もー、正直に言ってくれないと後悔するのは政孝なんだからね!」
「だから、違うって。なんで俺が後悔しなくちゃならないんだよ。」
「何でって、これから先ずっと、この味付で食べなきゃいけないんだから嫌なら嫌って言っとかないと政孝が後々ストレス溜まるでしょ。
私、自分の味覚が敏感だから薄味になっちゃって実家で料理するとよく、味が薄いって弟が口煩いんだよね~」
「…………。」
政孝は黙り込む。
彼女の作った煮物が気にくわなかったわけではない。
むしろ、いつも通り美味しい夕食だ。
― なんなんだ、本当に。
政孝は心の中で荒れ狂っている感情をどうやって抑えるかで必死だ。
彼女は何の気なしにただ世間話をしているつもりだろうが、こっちはそれどころではない。
"これから先ずっと、この味付け食べなきゃいけないんだから。"
何度も頭の中でリピートされる。
"これから先ずっと"
政孝はご飯を出来るだけ早く平らげて、急いで風呂に入り、
政孝が風呂からあがってもまだ、夕食の後片付けをしていた彼女を半ば強引に風呂へ入らせた。
「政孝、どうしたの?何かムラムラすることでもあったの?」
政孝は何度か彼女が達したのを見届けて満足してから自分の欲を吐いた。
それでもまだ足りないとばかりに政孝がくたりとしている彼女の肌に指を滑らせるため、ベッドの上で息も絶え絶えに彼女が呟く。
「菜々美には……言っても分かんないだろうから言わない。」
「何それ。私に隠し事なんて許さないから!」
またしても政孝の思考回路の上を行く彼女を優しく抱きしめて、政孝は至福を全身に感じたのだった。
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