瞳が映す景色


「遅いっ!」


「……、えっ?」


「片山先生がまず挨拶してくれなきゃ」


「先に進めておいてもらっても構わなかったんですよ」


「駄目だね。担任の僕が締めるって相場でしょう?」


賑やかだったクラスは、オレと白鳥先生の挨拶が終了するまでの間、とても静かで。ここでの学生生活を名残惜しんでくれているようだった。


三十二名の生徒の中――当然だが、藁科はいた。


長くてさらさらとした黒髪は、相変わらず頭の てっぺんで結われていた。椅子に座り、顔はずっと下を向いたままで、深い茶色の瞳が、今どんな表情をしているかは分からなかった。


代わりに……とでも主張するように、卒業生の印である胸元の白い花が、オレには泣いているように感じた。

< 100 / 408 >

この作品をシェア

pagetop