瞳が映す景色
もう用は済んだからと帰る澤の足音は大きかった。オレに腹を立てているのだろう。当然だ。それでも律儀に会釈してから、背を向ける。
「先生、もう、これでいいんだよね?」
扉に手をかけ出て行こうとした澤だったが、もう一度振り返り、一言。
「……ああ」
頷いた瞬間、扉が激しい音を立てた。澤が勢いよく蹴ったのだ。
「だったらっ!! なんでそんな顔してんのよっ!?」
ガラスの揺れが長く響く中、澤が怒鳴る。
「え……顔って、オレ……」
鏡など部屋には無く、澤はいったい、オレのどんな顔を見て怒ったのか分からない。
「澤……」
「いいですっ。……もういいです。ワタシ、コトハ連れてもう帰るから。さよならっ」