瞳が映す景色
「――ふわふわしてて、誰よりも優しくゲンちゃんを包んでくれてた子だった。手放して、よかったの?」
「手放すもなにも……」
オレのものだった時なんて一度もなかったし、望める自分でもなかった。教師と生徒だったとか関係な く、同じ場所で同じ景色を望める懐を持ち合わせていなかった。
責めるでもなく、いつもと変わらないトーンは、
「ゲンちゃが手を伸ばせばよかったんだ。吸収率も良さそうな子だから、全部自分好みになっただろうに」
白鳥さんの最大の優しさだと、もう充分に知っている。
「……けど、それはいけない。オレの度量じゃあ、あの子の世界を狭めると思う。本人が何も知らない、気付かないままにね。ちゃんと可能性を広げていってほしい。逃げたオレじゃあ、羽ばたかせてあげられない」
きっと、今も変わらず背中にある翼。オレにとっては誰よりも大きく美しく、何処へだって飛んでいけそうな。
――どうかどうか、いつまでも失くさないよう。