瞳が映す景色

①ー9・瞳に映す景色

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①ー9・瞳に映す景色
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わざと遠回りをして、やっと最寄り駅付近まで辿り着いた。電車に乗ればすぐのことを、意味もなく歩いてみたくなったんだ。


駅前にはとってつけたツリーにクリスマスのライトアップが施されてあり、大勢の人がそれを見上げていた。オレはそれを背にしてアパートへ帰る。視界の先には、ぽっかりと寂しい公園があった。電灯は煌々としていたが、今日は駅前に完敗らしい。


あそこは、オレの誕生日、藁科が噴水に落ちた公園だ。


横目に通り過ぎることが出来ず、公園の入り口で立ち止まる。




――、ちょうどいい。未練をここへ置いていけたら。


雪が積もった地面は、この公園だけほとんど踏み荒らされておらず、先客だった小さな足跡たちも、遠慮するかのように丁寧に足を下ろしたように想像できる。もうその姿は見当たらない。ツリーにでも走っていったんだろう。


「……、?」


しばらく気付かなかった。コートのポケットに入れていた携帯電話の振動を感じたのは、留守番電話に切り替わる寸前だった。


知らない番号だった。

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