瞳が映す景色

「はい。どうした? ――、藁科」


そのひとことに、最大限、愛しい気持ちを込めた。


「私、まだ名乗ってないのに」


「そんなこと」


間違えることなんてあるものか。


どんな時でも。そんな小さな声でも。


「先生……今日は愛想なくてすみませんでした。 ちょっと緊張してたし……あの頃のクセかな。ふたりだけじゃないと、上手く話しかけられなかったんです」


間違えるはずがない。電話の向こうは確かに藁科だった。遠慮がちなその声。


「違うだろ? 気を使わなくていい。オレが酷い態度とって、謝りもしなかったから」


だから……


「そんなことないっ! 先生があの時どんな 状況にいたのか、さっき白鳥先生から電話で話してもらって。……大変だったのにごめんなさい。私、 追い討ちでしたね」


「……さっき。白鳥さんが?」


「はい。美月ちゃんに番号教えてもらったって」


本当、余計なことをしてくれる人だ。

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