瞳が映す景色

それでいいと、藁科は頷く。もう何度見た、愛おしかった光景だろう。


「先生は、私を欲しいとは思ってくれないの? ――私は、先生のことがとっても欲しい」




そんなこと……。




「藁科……。っ、ごめんっ!!」


「っ!?」


優しくなんて出来なかった。きっと苦しかっただろう。思いやれたのは、藁科が咳きこんでから。


居ても立ってもいられなくなって、オレは藁科を抱きしめていた。


「ごめん」


力を緩めて、頭の位置を少しずらしてからもう一度抱きしめた。顔が近くて恥ずかしかったからだ。……けど後悔する。鎖骨辺りで感じる藁科の吐息に、オレはもっと動揺した。


「――平気です」


こんな触れ合いだけじゃ足りなくて、どうにかなってしまいそうな感情。きっとこれからは扱いに困るんだろう。けど、大切にしていきたい。他の男になんか渡したくない。


「思っても、いいよな」


「何か言いましたか?」


「――、空耳だよ」

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