瞳が映す景色

風邪でよかったとも思う。通常時、こんな距離で、こんなこと言われていたら絶対に……。ああでも、風邪じゃなかったら、今こんな状況じゃないのか。ああでも、藁科まで床に臥せさせるかもしれない危ない状況は回避出来た……?


考察不能。支離滅裂。この表現が正しいのかも不明だ。


寝返りを打つと、藁科の肩越しに窓の外の空が視界に入った。その色は夕暮れを示していて――せっかく一緒だったのに、ほとんどの時間を睡眠に使ってしまうなんて勿体ないことだと、軟弱な身体を呪った。


頬に手が添えられる。


「熱、下がったみたいで安心です」


「看病のおかげです。ありがとう」


昨日の記憶はない。感覚として残っているのは朦朧とした意識。今日はもう、ゆっくり動ける程度には快復している。


だから……これ以上の密な距離感はちょっと困る、なんてことは秘密の話だ。


添えられていた手は、どうやらオレの顔を冷ますためにそうしていてくれたようで。同じ温度になると離れていった。


「もっと、触っててほしかった?」


余裕ぶった言葉以外は、声も顔も赤い気がするのは、部屋に差し込む夕焼けのせいだろうか。


「……そんなことは、ないです」


「ふふっ。先生って、照れると言葉が可笑しく丁寧になるのね」


人生で初耳な指摘。言えない秘密ごとを、もうどれだけ知られているのかは、恥ずかしくて尋ねられない。

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