瞳が映す景色

「だって~」


「……はいはい。何がだってですか」


「冷たいなぁ。だって僕は心休まる場所をあまり持っていないんだよ」


にこやかに、そんな悲しい台詞を言わないでもらいたい。


「そうですね。お友達も少ないみたいですし」


「あっ!!……約束……」


「……みたいだし」


「うん。よろしい」


満足する姿は美しく、もういっそ真実客寄せパンダにでもしてやろうか。あたしが店頭に立つよりかは、集客力があること間違いない。


あまりのキラキラオーラが鬱陶しくて、以前嫌味まみれで吐いた私の台詞に、真剣に雇用条件を訊ねてきて焦ったから、もう絶対に口にはしないけど。


カウンター越しに見えるのは、いつの間にか分別された幕の内弁当の空容器。


もうそろそろ帰ってくれと話題を軌道修正させた。


「無謀な片想いは、もうやめちゃえばっていつも言ってるでしょ」


年下の小娘のこんな口のききかたをにこやかな様子で良しとするのは、懐が深いのか、ただのエム的なそれなのか。


「諦めきれないんだ。どうしたらいいかな?」


「あ、き、ら、め、ろ」


助言なんか一切聞く耳持たないへらへらした笑みまで美しいなんて、いい加減腹が立つ。


日焼けをしても赤くなるだけの肌は、適度に白く、きめ細かく滑らかだ。色素の薄い髪は猫っ毛で、寝癖対策で毛先にパーマをかけているらしい。切れ長の目は睫毛が長くて色っぽい。鼻筋もくどくない程度に陰影があって、続く唇は血色がいい。目元口元にあるホクロが更に格別の役割を担っている。

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