瞳が映す景色
うちの店を閉店前の同じような時間帯に利用するお二人は、最近では談笑もするようになったらしい。
某物語に登場してくる卵形の紳士のような林さんと、麗しい男が並ぶ様子は微笑ましい。互いに柔らかな笑顔の人物だからなんだろう。
「林さん。もうすぐですよ」
奥の調理場の音を聞き分けて伝えると、林さんはよっこらしょと席を立つ。
やがて運ばれてきた品をビニール袋にセットして手渡すと、奥さんの待つ家へと手を振りながら帰っていった。共働きの林さん宅は、時折こうして、同じ種類の弁当を二つ買いに来てくれる。昔はひとつだけだったエピソードは微笑ましい。
「――さ、もう閉店です」
促すと、まだ居座り続けていた先客がようやく重い腰を上げた。
「今日もご馳走さまでした」
「いつもご利用ありがとうございます」
こうした挨拶にまでダメ出しされないのは楽。ここにまでフランクさを求められてもあたしには無理な話だ。
店の敷地を出るところで、そういえばと思い出す。
「白鳥さんっ。ごめんなさい。お釣り忘れてました」
「寄付でいいのに」
「うち募金箱ないし」
「教会の懺悔室みたいだから」
ふわりと、白鳥さんの口角が上がる。この男は、寂しいことをいつも満足そうに頷く。
確かに、いつも無駄に話されてばかりだけど。
「……結局、私のアドバイスなんてくそくらえでしょ?成功報酬ならもらってあげなくもない」
案の定、白鳥さんは今日の愚痴――救いなき恋について――は諦める気はないようで、向かいの単身者マンションに帰っていった。