瞳が映す景色
時刻は二十時。看板の電気を消してレジの締め作業を始める。
今日の売り上げレシートと、明日の釣り銭を除いた現金の点検をする。これがぴったり合わないと誰かがミスをしたということで。お客様にお釣りを少なく渡していたりしたら大変だ。
「ん、よしっ」
うちの店頭販売は現金払いのみで、締め作業はここを乗り切れば一安心。あとは外を掃除して、カウンターのシャッターを閉めれば終了する。
再び店内に戻り、奥の調理場に声をかける。
「お疲れさま、若旦那」
「……お兄様と言え。若女将」
「だったら、常連さんにあたしのこともそう呼ばないように言っといてよ。ただのバイトだよ」
愛されている証拠だからいいじゃないか――なんて、面倒臭そうに言われても真実味は皆無だ。
兄を放って、あたしだけ家に帰る。
と言っても、店舗と家は隣同士で繋がっているけど。
宇佐美小町。二十一歳。大学三年生。家は自営で仕出しとお弁当の店頭販売をしています。家業は兄がすでに継いでるから、あたしは必要ないと言わてたけど、とある事情で一年くらい前からそこでバイト中。
「ただいま~」
リビングに入ると、今日の晩御飯はおでんだった。……九月に何故。
キッチンでは、母と、同居の兄嫁が食べたかったからだと顔を見合わせてた。
程なくして兄も帰ってきて、部屋で寛いでいたらしい父を呼び、五人で食卓を囲んだ。