瞳が映す景色
家が商売をしていると、食事どきに家族が一同に集まる機会は少ないという。我が家も朝と昼はバラバラだけど、晩御飯は大抵みんな一緒に食べる。
四人だったのが今は五人に増え、うるさかった食卓はもっと賑やかになった。兄嫁の佳奈ちゃんは明るくて美人で気立ても最高だから、姉が欲しかったあたしは嬉しくてたまらない。よく同居なんてしてくれたものだ。
後片付けは免除されてるから、食事を終えてしばらくリビングで過ごす。林さんに言っていたとおりにソファの兄にちょっかいをかけると、鬱陶しそうにお風呂へ行ってこいと足蹴にされる。
今日はなんでか疲れてたあたしは、さっさと入浴を済ませて二階の自室に帰った。
部屋のドアを開けると、むわっとしたまだまだ夏の暑さがまとわりつく。エアコンが効いてくるまでの間、私は窓を全開にした。生暖かな風が、顎の辺りで切り揃えられた髪を揺らす。
「――あっ」
窓からの景色は、道路を挟んだ向こう側に単身者マンションがあって、八階建てなものだから視界は遮られる。そのマンションの四階に、まだまだ暑い時期だというのに、エアコンをつけてないのか窓全開のお宅がある。
まだまだ、仕事は続けるのか。
マンションの四階、窓全開のお宅の主は、さっき閉店まで店に居座っていた、眉目秀麗な男の部屋だ。
ということを、半年前、あたしは密かに知った。