瞳が映す景色
ひとまず、コンプレックスは置いておいて、ほくほく感だけを噛みしめることにした。
「予算内で済んで良かったね」
「本当だよ。ひとつ高機能なのも買えたしねっ。相談しながら買うのもいいかも」
「あたしも、あの店員さんだったらそう思っちゃう」
菜々は、自分もそうやって望んでもらえるような仕事をしたいと、内定をさも勝ち得ているように闘志を燃やす。
確かに、接客業を経験して、お客さまから望まれたり、顔を覚えてもらえて贔屓にしてもらえることは、達成感を得られるし大層嬉しくなってしまう。お金を受け取る側を信頼してくれるのは自信に繋がる。その信頼を継続してもらえるように気持ちが引き締まる。
自分の評価に直結するからという面も多くあるけど、それはそれで慈善事業ではないのだからいいと、あたしは思う。少なくとも、やりとりをしている間の空間を快適にする努力を惜しまないのは基本だ。
「――指輪、してたよ」
「何、突然」
唐突に菜々が言う。
「あの店員さん。左手の薬指に指輪してた。質問してみたら、まあそうだろうけど、結婚してるって」
あれくらい綺麗で出来た人なら周りは放っておかないだろうと頷く。
「憧れる。両立して素敵とか」
「小町の面倒なお客が愛してやまない人妻だよ――あの店員さん」
弾丸みたいなひとことだった。
「っ!?」