瞳が映す景色
「そういうこと、って?」
頭の回らないあたしに怒るでもなく、菜々は前から感じていたことだという疑問を投げかけてきた。
「現実味、ないじゃない。小町のお客の好きな人妻。何だか、空想の人物像に恋してるか、架空の人物を好きだと言ってみせてるだけに私は感じる。……だとしたら、そんなことで頭を悩まされてる小町が可哀想だし腹が立つ」
「う~ん」
「さっきの店員さんがその人妻っていうのは口からでまかせだけど、存在してるとしたらもう少しリアルに感じない?」
「う、う~ん……」
「それくらい話に毒がないの。人妻だよ?手を出したら不倫とか生々しくなるのに、匂いがしない。例えば、お客が好きな人妻はどんな女性だったっけ?」
以前、それはそれは長い言葉で表現された白鳥さんの好きな人を要約して代弁する。
「どんなって……無意識に僕を翻弄してくれる、一見クール美人だけど笑うと可愛くて、すぐ恥じらい、清楚で……」
「何が清楚よ。すること済ましちゃって嫁姑戦争に向かっていってるかもしれない人妻を女神みたいに」
菜々は、あまり気にせず大胆な発言をたまにする。世を舐めての声でも、背伸びをしてのそれでもなく、意識せず。それが堪らなく可愛く見えるのは、素の気持ちを、顔を赤らめたり、目に涙を溜めながら口にするところ。本人はその様子に気づいていないところ。高揚も、素直なのだ。