瞳が映す景色
「……、指がとても綺麗で、触れそうになる機会があるときは衝動を抑えるのに必死とも言ってたよ?」
「触れる機会与えられてるのっ!?どんな人妻よ。それで無意識に翻弄とかは……現実味ないよね、やっぱり」
確かに、白鳥さんが人妻を語る姿は純すぎて。だからあたしも相談めいた憂いに付き合えるのかもしれない。切実に、略奪とか話されても、彼氏がいたことのないあたしには荷が重すぎる。
けど、
「うん。でも、それ語る顔は蕩けてたから現実世界だって信じちゃった。ちなみに、待ち受けは隠し撮りの横顔らしいよ」
「嘘じゃなく?」
「ふいに視界を掠めたけど、女の人の写メではあったよ。興味なかったからガン見はしなかったけど」
「うん。それでいいと思うよ。――やっぱ、小町も信じてなかったんだ」
「だね。――現実味なく感じるのは、そうしなきゃ、まともを保ってられないんじゃない?……人妻だし。行動に移さないための牽制的な?」
「そうやって解ってあげちゃうから、小町はカモにされるんだよ」
ああ。そうなのかもしれない。
あの捨て犬のまなざしは、きっと嘘ではないけど解ってやってる。切ない恋は自分だけでは抱え込めず、けど、不用意に口にすることは禁物。
だから、日常にほとんど接点がなく、従順に自分の話を聞いてくれるあたしは、適任なんだろう。白鳥さんを崖っぷちに追い込むことはしないだろうとも。
「自業自得かぁ」
「ごく一部」