瞳が映す景色
目の前の通路を行き交う人の密度が増してきた。そろそろ皆さんの帰宅ラッシュが近付いてきたらしい。
「……」
「……」
「帰ろっか。菜々」
「だね。目的は達成したし、色々と余計な会話に費やしちゃった。……他人の色恋に首突っ込むなんて虚しいだけね。なんて恥ずかしい私たち……」
ゆるゆると一緒に席を立つ。電車の路線も方向も同じ、降りる駅だけが違うからお喋りはまだ続くけど、もう白鳥さんの名前は出てこない。
菜々は、白鳥さんが間接的に嫌いだ。
「どうせならお互いの恋について語ったほうが楽しいし、乙女らしくない?」
「お互いにそんな話題もないくせに?」
「……」
「ここはひとつ、大学生らしく勉学のことを。小町、何か喋って」
「ええ~。……じゃあ、――あっ!!そういえば、菜々が卒論の資料に探してた本がとある図書館にあったよ」
「嘘っ!?あんなマイナーなのがっ」
「ホントホント。菜々の駅から行ける範囲内かギリギリで、帰路とは逆なんだけど」
「そっちの方は知らない場所だよ」
「兄と佳奈ちゃんとラーメン食べに行った帰りに寄ったの。佳奈ちゃんがそこで働く友達に用があるからって。で、偶然見つけた」