瞳が映す景色
菜々は今、大正時代かそこらのとある恋の唄を、音楽要素以外の観点から調べている。そこからどんな卒論が出来上がるのかは不明。タイトルは聞いたけど忘れた。
「あんな超否定、けなしに近い解釈、よく書籍になったもんだね。パラパラと捲ってみたけど」
「あ~ん。私も早く読みたいってば」
どうしても解釈を読んでみたい一冊が大学にもなく、発行部数も少なかった絶版なそれを諦められない菜々の悲鳴をあたしは何度も耳して覚えていた。
うん。刷り込みって、大事だわ。
「で、場所の説明が欲しいんだけど」
「覚えてない。だから、そのうち兄の車で連れていってもらうとしよう」
「それは悪いって。今度クリスマスのチキンを予約がてらに説明求むって夜行こうかな」
多分、兄は菜々が来るのは大歓迎だけど。あたしより、菜々が妹のほうが良かったと喧嘩をするたび言われるくらいだから。
けど、
「地図とか説明とか超苦手だから、そのまま車で拉致られて、ここだって言われるだけだと予想する」
「兄妹そっくりね、そういうとこ。じゃあ、忙しくない時期狙って行かなきゃね。近い日逃したら年明けかな」
律儀に気遣う菜々は視線を上にやりながら、器用に人混みを避けて改札を通っていく。
あたしも、ちゃんと人混みをすり抜けて。
これにて、今日のショッピングは終了。
・
―――――――――――――――――――――
②ー2・I am ashamed to say that
―――――――――――――――――――――