瞳が映す景色
マイナーだけどコアなファンがついている作品は、マイナーだから上映館数が圧倒的に少なくて――それでも、片道二時間以内の場所で上映されるのは奇跡的だった。
記念すべき第一章は、気軽に足を運べない首都圏、それもたった一館だけでの上映だった。丁寧な作りと物語の素晴らしさに、回を追うごとに少しずつ広がっていったのだけど。
余韻に浸るのは帰って部屋に籠ってからだなとパンフレットを鞄に仕舞う。今日はバイトも休ませてもらったから、ひたすらに読み更けられる。
「……、あれ?」
ふと、荷物に物足りなさを感じて確認すると、コートを座席に置いてきてしまったみたいで。
真冬に防寒着なしでは帰れない。慌てて入り口のスタッフに要件を伝えると、今清掃を始めたところで確認が済んでいないからと、観賞していた六番スクリーンまで誘導してくれた。
映画を独りで観るとき、あたしは必ず最後尾最右側を陣取ることにしているから、忘れたコートはすぐに見つかった。
安心すると、清掃スタッフ二人の他に、前方の席の方で座ったままの後頭部がひとつ確認できた。後頭部は、スタッフの人に声を掛けられ、ハッとした様子で立ち上がる。どうやら眠ってしまっていたみたいだ。
なんとなく、ぼうっと前方の光景を眺めながら、スクリーン出入口に足を向けた。
居眠りの人が左側の出入口に軽快な小走りで向かってくる。
あたしは、ゆったりと、右側の出入口から。