瞳が映す景色

「えっ……」


「っ、あれっ!?」


左右それぞれの出入口から明るい通路に顔を出したあたしと後頭部が変な声を上げて立ち止まる。


「な、なんで?」


「――奇遇だねぇ」


こんなところで。互いに自宅から一時間半以上離れたシネコン。マイナーでコアな映画の上映後に。なんて……


「……気持ち悪っ」


誰かと感想を語り合いたいとは思ったけど。


神様。これはあたしの希望ではありません。


「気持ち悪って……酷いじゃないかぁ。いつもみたいに僕を癒しておくれ、マリアさま」


「輪を掛けて気持ち悪っ!!」


「輪を掛けて酷いっ!!」


居眠り後頭部は、非道な高校教師でお店の常連様、白鳥誠一だった。




何故かお手洗いを済ませるのを待たれていて、あたしは、白鳥さんと並んでエレベーターに乗り込んだ。


彼氏でもない男子に自分だけのお手洗いを待たれるのがこんなにも居たたまれない気持ちになるんだと初めて知った。……いや、彼氏はいたことないけど。


エレベーター内に言葉はなく、機械音だけが響く。どうして談笑する乗客がいない。


沈黙が苦手だったのか、もう少しで駅への連絡通路階に着くというところで、白鳥さんが息を吸い込み、何か話そうとする気配を感じた。


あたしはそれを――ああ、この人って、あたしよりこんなに背が高かったんだ?なんて今更確認しながら――ぼんやり眺めていた。

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