瞳が映す景色
――もう、どうでもよくなっちゃった。
映画の余韻が白鳥さんのせいですっかり冷めてしまった。
途端に、ふるりと肩が揺れる。エレベーターを降りたそこ、駅への連絡通路は、屋根こそあれど屋外で。二月の夜風と足下のコンクリートは暴力的だ。
「寒っ。白鳥さんもコート着ないと風邪ひくよ。荷物預かるから着たら?」
いつも仕事終わりの鞄はパンパンだけど今日はもっと大量で、大きな紙の手提げ袋もある。平日だけど、有給とかで買い物でもしてたんだろうか。
視線に気付いた白鳥さんが聞かずとも教えてくれた。
さりげなく、あたしが先にコートを着るようにと促してくれながら。
「こっちの方で講習会だったんだ。その資料と職場で配布するものまで渡すって、無体だし機密とかアバウトだよね~。はい貸して、鞄と荷物」
「あっ、ありがとう」
「うん。――けど、講習会の昼食の仕出し弁当で何人かに食中毒っぽい症状出て予定より早く解散、……そして後日また仕切り直しだって」
「うわぁ。他人事じゃない話。震えがきちゃう事件」
「再びの講習会を一緒に嘆いてはくれないんだね……。食中毒とか、あのお店はしっかりしてるから大丈夫でしょ」
「それは勿論だけど。信頼は光栄だから、引き続きご贔屓にしてもらえるよう精進しなきゃ」
「ずっとご贔屓だよ~。――あっ、これって、さっきの映画のパンフレット?」
ビニールの手提げから透けるパンフレットは、まるで古典の教科書みたいで。教科は違えど気になるのか、白鳥さんは興味津々な様子で期待の眼差しを向けてきたのだった。