瞳が映す景色


風が吹くたびに、いつも顔を合わせる夜よりか随分整えたショートボブがさらさらとなびく。


髪の間から時折覗くんだろう誕生石の水色のピアスが揺れるほど……白鳥さんが耳朶を指してそれの指摘を続けるほど……恥ずかしさが込み上げてきた。


「おっ……」


「お、?」


「おかしいかな……ただ映画観るためだけに気合い入るのって。しかも暗くなる時間に独りで観て……」


恥ずかしさの原因は、以前、誰かにそうからかわれたから。むきになって言い返したあたしに、その誰かはもっと酷いことを……痴漢とかに寄ってきてほしいのか……と。


誰かは独りで観賞するタイプの人じゃなかったし、何がどうしてそういう思考に行き着いたのか理解出来なかった。


けど、誰かが言ったことに正解はないし、もう、そいつ以外の誰かにそんなふうに思われるのは悲しい。


おかしくなんてないよ、と白鳥さんが微笑む。


更なる言葉をあたしは紡ぐ。


「観終わったときの空は、スクリーンと同じ黒が良くて」


「うん」


「大好きな映画には、お気に入りばかりで挑みたいっていうか戦闘服というか」


「うん。僕はあまり映画は観ないけど、なんとなく共感出来るかな。――それはまるで、デートみたいな感覚だね」


すうっと、それに共感する。恋人にだけのことじゃないけど、大切なものや人には、いい自分でいたい。


「だから、今日はデートかと思ったくらいだ。似合ってるよ」

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