瞳が映す景色
「デッ!?」
「――ん。デッ?」
それは……
「……そっちこそ……」
「そっちこそ?」
いつものカウンター越しとは違う状況で、ここから話題が進むことは、果たして良いのか迷った。面倒はごめんだ。
いい加減寒いし早く帰りたい。けど、あたしの詰まった言葉の先を知りたくてたまらないらしい白鳥さんが立ちはだかる。
……、
「……白鳥さんのほうこそ、あたしはデートかと思ったんだけど?」
「え~、僕~?」
「双方のテリトリーから離れてないと、白鳥さんはデート出来ないじゃない」
人妻だし。
「う~ん。そうなんだけど、デートなんかしたことないし、してもらえないよ~」
へらへらする邪魔な白鳥さんを押し退けて駅へと向かう。
背中からは、待ってよ~とか言うおどけた声。この人の真剣な声をあたしはあまり知らない。
現実味なく感じるのは、そうしなきゃ、まともを保ってられないんじゃない?――以前、菜々に話したように、このおとぼけもそれに付随するからそうなんだろうか。けどそれなら、白鳥さんはいつも大体そうで。ということは、いつも好きな人を想って憂いている?
そんなの……
なんて……
……大馬鹿なんだろう。
そんな恋愛。所詮あたしたちと一緒じゃないか。白鳥さんが大嫌いな、女子高生、子どもの熱に浮かされたそれと変わらない。
「あれっ、もう帰っちゃうの~?」
追い掛けてくる声も、変わりなくいつも通りだった。