瞳が映す景色

その姿が見えなくなるのを確認して、堪える必要もなくなり、その場でしゃがみ込んだ。


体育座りみたいに両腕で膝を抱え込み、そこにおでこを重ねる。


ため息さえも、出てこない。


自分に呆れて、消えてしまいたい。


「――少し、立ち聞きしちゃった。ごめんね」


「いいの。助かったし、あたしがやり過ごせるなら越したことなかったんだし。こんな展開になるの予想外で。……なんか、ずっと、ジェットコースターみたいな……先月くらいから、なんか展開早くて、色々、あって、勝手な心境だけど、畳み掛けられすぎて……菜々が来てくれなきゃ、……あたし、泣いてた」


「バイトでね、ケーキ貰ったから小町にって来たんだ。――いつもの会話みたいなら黙ってられたんだけど、小町、限界値越えちゃったから」


「優しい。本当に、ヒーローみたいだった」


未だ、菜々の風貌は可笑しなまま。闇夜のサングラス。頭にはマフラーを巻き付けている。母の若い頃の写真にあったな、こんな巻き方。


「昨日ね、寝れなくて観てた深夜のアニメに感動したの。ヒーロー見参、ってところで泣いちゃった。それの真似っこ」


「……今度、観てみよっかな」


「言っとくけど、変身はなくてスポーツだからね。変装は緊急避難的な。サングラスは、この前の飲み会の景品がまだ鞄にあって、役立ったわ」


その言葉の意味を、理解出来ないでいた。


顔を上げ、ねだるあたしに、菜々は同じようにしゃがみ込み、ようやくサングラスを外す。


「――私から、小町の正体バレるなんて、嫌でしょ?」

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