瞳が映す景色
バレないならそれなりに、もっと失礼なことをしでかしてしまえば良かったと菜々は眉をしかめた。
「……うん。知られたくないから助かった。ありがとう」
「小町は、本当に大馬鹿」
「うん。…………本当にね……」
あたしは大馬鹿で、とんでもなく、最低最悪だ。きっと、白鳥さんなんか子供騙しなくらい。
「菜々ぁ……」
「うん。なあに」
「あたし、最低なの」
「そうかな」
そうなんだよ。
「白鳥さんの僅かな改心を、喜んだ。藁科さんに感謝した。尊敬した。会ったこともない子に憧れた」
「うん」
「でも……」
……でも、それは一瞬のこと。
憧れや感謝の気持ちは一瞬でどろどろに溶け、成り果てたのは醜い心。
悔しい。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいっ!!
『それ』をさせてあげたのが、どうしてあたしじゃなかったんだろう。
どうして、白鳥さんは覆されてくれなかったの?あんなに、何度も違うよと伝えたのに。
どうして、あたしは白鳥さんを覆せなかったんだろう。
「……どうして、あのときの、あたしの精一杯の告白は、伝わらなかったのかな……なんで、あたしは忘れられちゃったのかな……」
どうしてと、責めてばかりのあたしには当然の結果?
「……それは、白鳥先生がろくでなしの人でなしだからよ。小町には悪いけど、私はずっと先生のこと大嫌い」
「だ、いじょうぶ。……あたしも、今は嫌いだよ?」
困ったように、菜々は涙するあたしの頭を撫でてくれた。