瞳が映す景色
放課後、その全方向美形な背中に声をかける。
「白鳥先生。一筆書いてもらいたいんですが」
「へっ?」
体育祭時と同じジャージ姿で振り返ったと思ったら、目をパチクリとさせながら見上げられてしまった。
校舎裏、道路との境目のフェンスに沿って生える雑草の掃除をしていた白鳥先生は、腰が痛いと立ち上がって背筋を伸ばしたりしながら、むしった雑草を運び始める。
「ちょっと待ってて」
「あっ、手伝います」
「制服汚れるといけないからいいよ~」
数メートル先には、これを白鳥先生ひとりで処理したんだったら凄い、という量の抜いた雑草の山があった。
「……これ。全部白鳥先生が? 秘密基地でも築けそうです」
「違うよ~。若い先生が交代でやってたんだ。今日は僕で最後」
帰宅部はだいたい帰ってしまっていて、部活の人たちはよそに目を向けにくいだろう時間の今を狙った。菜々たちには先に帰ってもらった。予定より若干遅くなったのは、白鳥先生がこんな場所で作業をしていて見つけられなかったから。
あたしの手の中には、兄から押し付けられたものがあった。
「お疲れさまです。……あの、お手間はとらせないので、これに対してのやんわりとしたお断りの旨を一筆お願いします。そうしないと兄が物凄くしつこいかもしれないので」
「お兄さん?」
「はい」
あたしの手の中には、兄から押し付けられた、実家が営む仕出しとお弁当の店の名前入り手拭いがあった。