瞳が映す景色
特例を、こんなにあっさり認める先生に戸惑った。
「色々気を回してくれた子なら大丈夫だろうし、お兄さんからだと思っておくよ」
「いいんですか? なら、あたしは楽といえばそうですけど」
「じゃあ僕に手拭い渡したことを寝たら忘れておいて。それならお互い煩わしくない。――あっ、仕出しのお店なんだ。羨ましい」
何が、大丈夫だとあたしを見て思ったんだろうか。全然大丈夫じゃない。気を付けているわりには鈍感すぎる。
何が、煩わしいから忘れろだ。忘れられるわけがない。どうして特例なんか作る。バカ野郎。
解ってる。あたしに特別を感じてどうこうしてくれてたんじゃないってことくらい。
先生として、嫌な汗をかくあたしにスポーツドリンクを渡してくれたことくらい解ってる。でも、あのペットボトルは、開けられずに部屋に置いてある。
手拭いを貰ってくれたのだってただの経緯にすぎない。でも言い聞かされた特例は、解っていてもあたしを嬉しいって思わせるんだよ。
初恋もまだだったあたしは情けないくらいにチョロくて、きっと落ち方としては安易ではあるんだろう。
白鳥先生は、けれど大馬鹿だ。
きっちりしているつもりでも、本来の優しさや軟派なところを徹底封印しないから、こんなチョロい生徒を骨抜きにしてしまう。
体育祭の日、白鳥先生と話してからの心の高揚の意味を、あたしはあの日の校舎裏で自覚した。
とある秋の日に、鞄の中身をばらまいた白鳥先生を手伝い、重い重い荷物だと感じたそれらが、先生自身の勉強のものがとても多くて尊敬した。
淡い恋心は、見ているだけでいいというだけではとっくに満足出来なくなっていた。