瞳が映す景色

けど、結局は先生と生徒だったし、交流出来る機会なんて何もない。体育祭のあれは赤組繋がりという奇跡の偶然だっただけ。同じことは二度なかった。


何の用もなく話せるスキルなんて持っていなかったし、群がる女子に混ざるなんて無理だった。したくはなかった。あの子たちの中には、騒ぎたいだけの子もいたから。


廊下で、職員室で、校内の色んな場所で見かけることが出来たのは嬉しかった。あたしの姿を認識してくれたような気がした日には、声なんてかけてもらえなかったけど幸せだった。


浮かれているのなんて承知だ。


始まりが簡単だったなんて、恥ずかしいくらい分かってる。


あたしくらいの気持ちなんて、きっと他にも内包している子はいるんだろう。悔しいけど。


だって、あたしは、白鳥先生を深くなんて知れていない。一面どころか、ひと欠片以下かもしれない。


でも、膨れ上がった気持ちは本物で、本気で好きだった。こんなに身が切れるほどの想いがあるなんて初めて知ったんだ。




どうにかなりたいなんて、望みはしたけど、解ってもいた。




卒業式。


……もう、正直覚えてはいない。どんな言葉で伝えたのか。どんな、蔑まれた表情と声でどんな断り方をされたのか。


白鳥先生があたしに背中を向ける直前のことは記憶にある。


――『お互い嫌なことは忘れてしまうのが最善だよ。僕は忘れてしまう、君のこと』――


笑顔だった。初めて言葉を交わした日や、校舎裏でのそれと同じ、大好きになってしまった笑顔で、白鳥先生はあたしを最後まで蔑んだ。安易だねって、否定した。




腰まであった髪を、あたしはその夜自分で切り落とした。

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